『テロール教授の怪しい授業』に学ぶ、広報・PRの本質

広報は、単に情報を発信する仕事ではありません。どんな言葉を選ぶのか、どう伝えるのか、どのタイミングで発信するのか——この少しの工夫で、受け手の印象は大きく変わります。そう考えると、「情報をどう扱うか」は、もはや戦略の一部と言えます。
そんな広報の視点で読むと、学びが多いのが『テロール教授の怪しい授業』です。カルロ・ゼン原作、石田点作画のこの漫画は、「テロとカルトの授業」を通じて、洗脳や扇動、プロパガンダの手法を解説する作品です。怪しげな外国人教授ティム・ローレンツが、学生たちに「テロリストの思考法」を教えていきます。
数年前に読んだのですが、とあるきっかけで読み直す機会があり、読み進めているうちに「これは広報パーソンが読んでも参考になりそうだな。」と思ったので、紹介させていただきます。
もちろん、テロの手法を学ぶことが目的ではありません。むしろ、情報のコントロールがいかに人を動かすのかを理解し、広報としての在り方を考えるのに適した教材と言えるでしょう。
1. フレーミング効果——「見せ方」ひとつで印象が変わる
ローレンツ教授の授業で印象的なのが、「テロリストと英雄は紙一重」という話です。歴史を振り返ると、体制側にとっての反逆者が、後に英雄として称えられるケースは数多くあります。つまり、どの立場から語るかによって、同じ出来事でもまったく異なる意味を持つのです。
広報の世界でも、同じことが日常的に起こっています。例えば「コスト削減」と伝えるか、「業務の効率化」と伝えるか。どちらも事実ですが、印象は大きく変わります。受け手の視点を意識しながら、どのようなフレームで語るのかを戦略的に考えることが、広報担当者の腕の見せどころです。
2. 扇動と共感——「敵と味方」を作るパワー
ローレンツ教授は、「敢えて敵を作る」ことで民衆を煽動した歴史上の事例を紹介しています。もっともらしい「敵」を設定することで、人々は疑いなく結束し、特定の考え方に染まっていく、、という仕掛けです。
広報でも、「共通の敵を作る」ことで結束を生む戦略がよく使われます。
「この製品なら○○の課題を解決できます。」
このように伝える際、「○○」が具体的であればあるほど、メッセージはより強く伝わります。ただし、本作が示すように、この手法は諸刃の剣です。過度に対立を煽ると、ブランドの信頼性を損なうリスクもあります。また、そもそも「分断」や「煽動」をテクニックとして用いることの倫理的な議論もありそう。
本当に敵を作る必要があるのか?
これは、広報担当者が慎重に考えるべきポイントです。短期的な効果があったとしても、長期的に見てマイナスにならないか? 使い方には注意が必要そうです。
3. カリスマとストーリーテリング——「伝え方」で人は動く
ローレンツ教授は、強烈なキャラクターとユーモアを交えながら、学生をどんどん引き込んでいきます。授業で出される課題も、「テロを成功させるには?」や「カルトを作る方法を考えよ」など、普通なら絶対に出てこないようなものばかりです。しかし、こうした意外性のある問いかけこそ、人を惹きつけるポイントになっています。
広報でも、ただ機能を伝えるだけでは心に響きません。「なぜこの商品が生まれたのか?」「誰のどんな課題を解決するのか?」というストーリーがあると、読者はぐっと引き込まれます。
特に、SNS時代の広報では、企業のトップや開発者が自ら語ることが求められます。発信者が「カリスマ性」を持つことで、ブランドの魅力はより強く伝わります。広報においても、「誰が、どのように伝えるのか」は、非常に重要な要素です。
4. メディア戦略——「どこで伝えるか」が成否を分ける
作中では、テロ組織がいかにしてメディアの注目を集めるかを議論するシーンがあります。「大きなイベントを狙う」「話題性のある場所を選ぶ」など、戦略的にメディアを活用する発想です。
これは、広報にもそのまま応用できます。新商品の発表を行う際に、単にプレスリリースを出すだけでは不十分です。業界のトレンドに絡めたテーマを設定し、適切なメディアやインフルエンサーに届けることで、より効果的に拡散できます。
「情報を出せば届く」時代は終わりました。
「どのタイミングで、どの場で、どのような形で発信するか」——ここまで考え抜いてこそ、影響力を最大化できるのです。
まとめ:『テロール教授の怪しい授業』が示す広報の本質
『テロール教授の怪しい授業』は、単なるエンタメ作品ではなく、情報の持つパワーと怖さを教えてくれる一冊です。広報の視点で見ると、次のようなポイントが浮かび上がります。
- フレーミング効果を理解し、伝え方を工夫する
- 敵と味方の構造を慎重に考えつつ、不要な対立を煽らない
- ストーリーテリングを活用し、人を惹きつける発信を心がける
- 適切なタイミングとメディアを選び、戦略的に発信する
情報を操ることは、人を動かすことにつながります。
だからこそ、広報は「ただの情報発信」ではなく、「人を動かす設計」でもあります。そのうえで、どんな未来を作るために、どんな言葉を届けるのか。
この視点を持つことが、今の広報PR担当者に求められる姿勢ではないでしょうか。