AIが量産する「スロップ(情報のゴミ)」に、僕たちの思考は浸食されていないか

深夜、一人でPCに向き合っていると、ふとした瞬間に「自分は誰が作った情報を摂取して、自分の意思に影響を与えているんだっけ?」という奇妙な感覚に陥ることがあります。
Ole Reissmann氏のニュースレター(Who gets seen? What gets surfaced?)を読んで、その違和感の正体が少しだけ見えた気がしました。この記事、AI時代の情報のあり方について、かなりヒリヒリする視点を提示しているんです。
この記事の中でインタビューに答えているTBSの川畑恵美子さんは、私の大学時代の同級生でもあります。彼女がメディアの最前線で鳴らしている警鐘は、私たちが日々向き合っている「広報」や「コミュニティ」のあり方に、鋭い問いを投げかけています。
「スロップ(情報のゴミ)」が奪うもの
記事の中で特に印象的だったのが、「スロップ(Slop)」という言葉です。AIによって生成された、中身のない、でもそれらしい顔をした「質の低いコンテンツ」を指します。著者は、安易なAI出力の垂れ流しは、受け手に対する礼儀を欠いた行為だ、とまで言い切っています。
これ、耳が痛い話ですよね。効率化の名の下に、自分の思考をパスして「それっぽいまとめ」を世に放流すること。それは、読者の時間を奪うだけでなく、発信者としての「尊厳(Dignity)」を自ら手放しているようにも見えます。
私がかつてSansanで広報部門を立ち上げたときや、今のkipplesでの活動でも、大切にしてきたのは「当事者/現場の体温」です。どれだけ整った文章よりも、現場の泥臭いエピソードや、いまだ言語化できていない「違和感」のほうが、よっぽど人の心を動かす。
効率を求めてAIに「正解」を語らせるほど、私たちが本来持っていたはずの「異端さ」や「独自性」が塗りつぶされていく。いよいよ考え直す時だなぁ、、と、私自身も現在進行形で迷いの中にいます。
「見えないもの」を表面化させる、広報の筋トレ
川畑さんが指摘しているのは、AIが情報の入り口(ゲートウェイ)になることで、「誰が見つけられ、何が表面化するか」をアルゴリズムが決定してしまう構造的な変化です。
これ、コミュニティづくりや新規事業開発の現場でも、全く同じことが起きていませんか?「盛り上がっているもの」や「平均的な正解」ばかりが強調され、隅っこにある「小さな、でも大切な兆し」が見えにくくなっている。
今回の記事を読んで、ちょっと前の日経の記事([社説]米ワシントン・ポストの窮地が示す教訓)を思い出しました。
ネット媒体も成長は限定的で、隠された事実を掘り起こし大きな権力を監視するといった機能の弱体化が心配だ。
この記事にある「隠された事実を掘り起こし……」という一節が、引っかかっています。大きなメディアが苦戦する姿と、AIが作る「それっぽい正解」の陰に隠れてしまう小さな声。その両方が、今の情報環境の危うさを物語っているような気がします。
一見遠回りに見える「文化的な話題」や、映画、音楽の制作プロセスに触れることは、実はこの「見えないものを見る」ための、広報PRとしての筋トレに近い。世の中のノイズから一歩引いて観察すること。それが、今の時代における「自律性(Independence)」を守る作法なのかもしれません。
独自の「文脈」を編み直す
今回の記事を読んで、改めて以下の3点を意識したいと思いました。
- 「スロッパー(中身のない発信者)」にならない:AIは「アシスタント」や「壁打ち相手」として使い倒す。でも、最後の「意志」と「手触り」は、絶対に自分(本体)が担う。
- 「文脈」を磨く:AIが提示する「標準的な答え」の影に隠れてしまう小さな声を、社会の文脈へと接続する「翻訳者」であり続ける。
- 「まずは小さく」自分の言葉で:完璧な要約よりも、未完成な独り言のほうが、誰かの共感(エンゲージメントではなく、深い共鳴)を呼ぶことがある。
皆さんの周りにも、AIが書いたような「正解っぽいけど体温のない言葉」があふれていませんか?そんななかで、あなたにしか語れない「泥臭い事実」や「現在進行形の迷い」はどこにあるでしょうか。
まとめ:
- 「スロップ(情報のゴミ)」は、発信者の誠実さを削り取る。
- AIは「効率」を提供するが、「視点」はくれない。
- 「見えないもの」をあえて表面化させることこそ、これからの編集・広報の役割。
- 独自の「視点」と「体温」を、言葉の中に残し続ける。
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日比谷尚武(ひびや なおたけ)
合同会社kipples 代表 / PRコンサルタント
慶應SFC卒。Sansan株式会社などを経て2016年kipples設立。スタートアップから上場企業・行政機関まで、広報・P R戦略の立案から実行支援まで幅広く手がける。







