「広報相談室」を4か月使ってわかった、AIとの付き合い方

2026年3月17日、「広報相談室」というAIチャットボットのβ版を公開しました。
広報について、ちょっとした疑問を聞いたり、企画を壁打ちしたり、原稿を添削したりできる相談相手です。
7月11日までのおよそ4か月で、届いた質問は2,352件。ユニークユーザーは192人、セッション数は371でした。
1人あたりの質問数は平均12.3問、中央値は3問。一番多く使った人は、505問です。セッション単位で見ると、1問だけで終わったものが26.4%。一方で、10問以上続いたセッションも16.7%あり、最長は86問でした。

こうして数字を並べると、それなりに利用状況が分かった気になります。
でも、ログを丁寧に確認していくと、数字から想像していたのとは、少し違う風景が見えてきました。
今回は、そのなかで特に印象に残った三つの使われ方と、そこから考えたAIの役割について書いておこうと思います。
最初のボタンを押して、そこで止まる人たち
192人のうち、89人は1〜2問だけ質問して、その後は使っていません。割合にすると46.4%です。
この数字だけを見ると、
「一度使ってみたけど、あまり役に立たなかったのかな」
とも思えます。
ところが、中身を見てみると、少し違いました。
この89人が送った質問は、全部で131件。そのうち64件、48.9%は、画面にあらかじめ用意していた質問ボタンをクリックしただけのものでした。
「メディアへのアプローチ方法は?」
といったプリセットの質問です。

自社の状況を書いたり、原稿や資料を貼り付けたりした人は、この89人のなかには1人もいませんでした。
評価ボタンが押されたのは9人だけでしたが、内訳はgoodが10件、badが0件でした。これだけで満足度が高かったとはいえないものの、少なくとも「不満を持って去った」と判断できる材料はありません。
まだ、自分の話をするに至っていない。
僕には、そんなふうに見えました。
プリセットの質問は、最初の一歩を軽くするための仕掛けとして置いたものです。いきなり自社の事情を書くのは、ちょっとハードルがありますよね。
でも、ボタンを押したところで止まってしまう人がいるのなら、その先にもう少し、何かしらの案内が必要なのかもしれません。
「あなたの会社の場合はどうですか?」
「差し支えない範囲で、背景を教えてください」
そんな一言があるだけでも、使い方は少し変わるかも、と思った次第です。
同じツールなのに、使い方の温度がまったく違う
質問全体のうち、40字以下の短い質問は1,162件。全体の49.4%です。
質問のほぼ半分は、40字にも満たない短い一言だった、ということです。
一方、300字以上の質問は236件で、全体の10.0%にすぎません。
300字以上の質問を一度でも書いた人は、192人中16人でした。

内容については、ざっくり分類すると、一般的な知識を一言だけ聞く質問が52.0%。自社の固有事情を書いて壁打ちする質問が29.5%。原稿や資料を貼り付けて添削を頼むものが10.0%。プリセットボタンのクリックが6.7%。残りの1.7%は相槌などでした。
また、質問全体の79.6%を、たった30人が投稿しています。
上位3人だけで48.2%です。
つまり、軽く覗いてみた人と、実際の仕事のために使った人に、くっきり分かれたということですよね。
これはAIに限った話ではなく、研修とか広報の現場でもよくあることだな、と思いました。
同じ研修を受けても、「なるほど」で終わる人もいれば、翌日には自社の企画書を書き換えてくる人もいます。同じテンプレートを渡しても、そのまま保存する人と、自分の会社に合わせて崩し始める人がいる。
ツールの機能以上に、使う側の切実さや温度が、そこから得られるものを変えてしまう。
そんな当たり前のことを、改めて数字で見せられた感じがしました。
そして、想定していなかった使われ方もありました。
キャリアや転職に関する相談が139件。利用者は11人です。
職務経歴書の書き方、応募メールの文面、面接の準備。
広報相談室が、いつの間にか広報担当者のキャリアコーチとして使われていたんですね。
これは、作る時にはまったく想定していませんでした。
でも、ちょっと考え方を変えると、広報担当者が自分の経験を整理し、相手に伝わる言葉に変え、次の機会につなげようとしているわけです。
そう考えると、広報とキャリア相談は、この相談室の守備範囲と言ってもよいのかもしれません。
使い込むほど、前の文脈が必要になる
ログのなかに、5,000字を超える投稿がありました。
冒頭には、こう書かれています。
「さっきのやり取りです。これを覚えて。」
その後に続いていたのは、前のセッションでの会話でした。利用者の質問だけでなく、広報相談室の回答も含めて、ほぼそのままコピーされていました。

広報相談室には、別のセッションの内容を引き継ぐ機能がありません。
そのため、この利用者さんは前回のやり取りを自分でコピーして、次の相談に持ち込んでいたんです。
かなり手間のかかる使い方です。それでも、一から説明し直すより、前のやり取りを丸ごと渡す方が使いやすかったのでしょう。
一般的な質問に答えるだけなら、ここまでする必要はありません。
「プレスリリースの書き方を教えて」と聞き、その場で答えが返ってくれば、それで終わるので。
一方で、自社の事情を説明し、原稿を見せ、何度かやり取りをしながら考えを整理していく場合は、前提そのものが重要になります。
どんな会社なのか。
何に困っているのか。
これまで何を試したのか。
前回の相談で、どこまで話が進んだのか。
使い込むほど、こうした文脈を毎回説明し直すのは面倒になります。
このログを見て、AIの回答精度だけでなく、相談の前提をどう引き継ぐかも、使い勝手を大きく左右するのだと気づきました。
もちろん、これは1人の使い方です。利用者全体に共通する傾向だとまでは言えません。
ただ、広報相談室を単発の質問に答えるだけのツールではなく、壁打ちや原稿づくりにも使ってもらうなら、文脈を引き継ぎやすくする仕掛けは必要になりそうです。
回答を賢くすることだけではなく、前回までの話を、どれだけ自然に続けられるか。
使い込む人のログから、そんな課題が見えてきました。
AIは、答えを出す道具というより「考えを外に出す場所」
ログを読んでいて感じたのは、広報相談室が必ずしも「答えをもらう場所」としてだけ使われていたわけではない、ということです。
長い相談をしている人ほど、自分の状況や迷いを、かなり丁寧に書いていました。
AIから何が返ってきたかも大事ですが、その前に、自分が何に困っているのか、何を決めきれていないのかを、文章にして外に出している。
その時点で、すでに少し整理が始まっています。
広報の現場でも、相談を受けていると、話しているうちに本人が答えにたどり着くことがあります。こちらが名案を出したというより、言葉にしたことで論点が見えてくる。コーチングみたいな構造ですね。
AIとの壁打ちにも、似た役割があるのかもしれません。
だとすると、重要なのは、いつも正解を返すことだけではありません。考えかけのことや、まとまっていない話を、安心してアウトプットできることも大事です。
AIがよい答えを返すことは、もちろん重要です。ただ、それと同じくらい、利用者が自分の状況を言葉にできることにも意味がある。
そう考えると、広報相談室で改善すべきなのは、回答の精度だけではなさそうです。話し始めやすい入口や、前の相談を引き継げる仕掛けも含めて、「考えを整理しやすい場」をどう作るか。
4か月分のログを読んで、次に試したいことが少し見えてきました。
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日比谷尚武(ひびや なおたけ)
合同会社kipples 代表 / PRコンサルタント
慶應SFC卒。Sansan株式会社などを経て2016年kipples設立。スタートアップから上場企業・行政機関まで、広報・P R戦略の立案から実行支援まで幅広く手がける。







