AIで浮いた時間を、広報はどう使うか

知人の細田さんが書いた「『この作業を楽にして』とAIに頼んでも、広報は楽にならない」という記事を読みました。
これが、めちゃ面白く、示唆に富む内容でした。
単に「AIで記事作成を効率化しました」「情報収集を自動化しました」という話ではありません。
細田さんは広報専門職ではなく、CFOやCOOなどの経営経験が豊富な方です。だからこそ、個々の作業ではなく、広報業務全体を再設計するという視点を提示できたのではないか。私はそう受け取りました。
個々の作業を速くしても、広報は楽にならない
細田さんは記事のなかで、「仕事」の流れを次の六つに分けています。
- 設計する
- 情報を得る
- 情報を整理・処理する
- 何かを生産する
- 品質管理し、承認する
- 届ける
6ステップの分け方自体には、ほかの整理もあり得るでしょう。大事なのは、人間が「設計」「品質管理」「対人コミュニケーション」に集中し、ほかの部分をなるべく自動化するという考え方です。
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広報業務には、情報収集、企画、原稿作成、メディア対応、掲載後の検証など、さまざまな作業があります。AIを使えば、一つひとつはかなり効率化できます。
でも、個々の作業を速くしただけでは、仕事全体が楽になるとは限りません。
情報収集を自動化しても、集めた情報を確認し、別のファイルに転記し、関係者に共有する作業が残る。原稿作成が速くなっても、その後の確認や社内調整には時間がかかります。
作業と作業の間に「つなぎの作業」が残り、そこが新たなボトルネックになる。ここは、かなり共感しました。
細田さんは、こうした部分的な効率化を「Copilot的使い方」と呼び、入口から出口までを一気通貫で考える「Agenticな使い方」の必要性を述べています。
個々の作業ではなく、一連の業務フローとして捉える。さらに、その仕事が事業全体のなかでどんな役割を果たすのか、属人化せずに継続できるのかまで考える。そこまでが業務設計なのだと思います。
必要なのは「視点の上げ下げ」
ただし、業務全体を俯瞰すればよい、という話でもありません。
実際に仕組みを動かすには、情報の取得元や保存形式、確認のタイミングなど、現場の細かな作業への理解の解像度も必要です。
一方で、細部ばかりを見ていると、いつの間にか仕組みを作ること自体が目的になってしまいます。
この作業は、本当に必要なのか。
自動化によって生まれた時間を、何に振り向けるのか。
時々、ぐっと視点を上げて、業務全体や事業の状態を眺め直す必要があります。
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つまり、これから求められるのは、現場の細かい作業と、業務フロー全体、さらに事業や経営の中長期という、異なる高さの視点を柔軟に行き来する力なのだと思います。
AIツールを使えること以上に、この「視点の上げ下げ」が重要になるのかもしれません。
不要な仕事まで高度化してしまいがち
実は私自身、この視点の上げ下げに失敗したことがあります。
自分の仕事で使うメディアリストを自動的に管理し、CRMのように運用する仕組みを作りました。
記者との接点や掲載記事、異動情報、最近扱っているテーマまで確認できる。このあたりまでは、かなり便利でした。
ところが、仕組みを作りはじめると欲が出ます。関心分野の細分類、記事傾向の抽出、クライアントとの相性の数値化、次に声をかける相手の自動提案まで試したくなりました。
技術的にできることが増えるほど、精度や分析項目も増やしたくなり、気づけばかなり複雑な仕組みになっていました。
でも、後になって気づきました。
「私の場合、記者の顔を思い出せて、その人が直近に書いた記事が分かれば、あとは自分で考えた方が早い」と。
このテーマを面白がってくれそうか。今、声をかけるべきか。どんな切り口なら、その人の関心と伝えたいことが重なるか。そこには、以前交わした会話や反応、自分なりの手応えも入ってきます。
私が必要としていたのは、すべてを仕組みに判断させることではありませんでした。記者の顔と直近の記事が思い出せる。あとは、自分で考える。そのための材料をすぐに取り出せれば十分だったのです。

何を「AIにやらせない」か
AIは、必ずしも仕事を減らしません。できることが増えた結果、本来は必要ではなかった分析や確認、仕組みの保守まで増えてしまうことがあります。
だから、自動化を設計する際は「何ができるか」だけでなく、「何を自分でやるのか(≒何をAIにやらせないのか)」まで決める必要があります。
細田さんも記事のなかで、最終的に「人と接する所」は自動化しないと決めた、と書いています。合理化や自動化を進めた先で、何を人間に残すのかを決める。それも業務設計の勘所なのだと思いました。
どれだけフィードバックしても、どれだけ各個人の情報を与えても、メールの文体だけはどうしても「細田」にはなりませんでした。
(中略)
「好き」な仕事は、どこまでいっても納得するクオリティにならないし、好きな仕事まで無くしたら、逆にエンゲージメントが下がる。
ので、私は人と接する全ての業務は「手動でやる」と決めました。この「不合理を受け入れる勇気」もきっと必要だと信じています。
AIで生まれた時間を、何に使うのか
私は、AIによって生まれた時間を、現場に顔を出し、人の話を聞き、自分でも何かを体験することに使いたいと思っています。そこから、新しいアイデアや次の仕事のネタが生まれるからです。
私は広報の仕事とは別に、代官山で「ビビビ。」というクラフトビールの店に関わっています。
その仕事で、日本全国のビールの作り手を訪ねることがあります。
実際に足を運ぶと、どんなビールを作っているかだけではなく、その人がどんな街で暮らし、どのような規模やスタイルで製造し、地域や仲間とどう関わっているのかまで見えてきます。醸造所や設備を見て、一緒に食事をする。そうした体験を通じて、ばらばらだった情報が記憶に定着し、何より相手への愛着が湧くんですよね。
これ、広報でも同じだと思うんですよね。公開情報はAIで網羅的に整理できますが、経営者や現場の人と話し、事業が動いている場所を見ることで、初めて分かることもある。その実感が、相手への理解や共感、時には愛着につながり、伝える言葉にも体温を与えます。
広報は、情報を整理して届ければ終わる仕事ではありません。相手を理解したうえで、何をどう伝えるべきかを考える仕事でもあります。
AI化のゴールを、効率化で終わらせない
細田さんの記事を読んで、広報業務のAI化とは、個々の作業を効率化・自動化することではなく、業務全体を再設計することなのだと改めて感じました。
何を自動化するのか。
何を人間に残すのか。
そして、生まれた時間を何に使うのか。
私は、その時間で現場に顔を出したい。人の話を聞き、自分でも何かを体験したい。そこで得た記憶や愛着が、次のアイデアや仕掛けの種になるからです。
AIは、現場を代替するためのものではない。
現場へ戻る時間をつくるために使う。
少なくとも私は、そんな使い方をしていきたいと思っています。
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日比谷尚武(ひびや なおたけ)
合同会社kipples 代表 / PRコンサルタント
慶應SFC卒。Sansan株式会社などを経て2016年kipples設立。スタートアップから上場企業・行政機関まで、広報・P R戦略の立案から実行支援まで幅広く手がける。









