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ルールを変えるだけでは、社会は変わらない――矢嶋聡さんと「世論を巻き込むPRとルールメイキング」を考えた

ルールを変えるだけでは、社会は変わらない|矢嶋聡さんと考えたPRとルールメイキング

先日、Public Meets Innovationの「PMIルールメイキングアカデミー」で、株式会社はね代表の矢嶋聡さんと一緒に、「世論を巻き込むPRとルールメイキング」をテーマにお話ししました。

矢嶋さんは、NAVER・LINEでPRやマーケティングを統括し、その後メルカリでグループ広報責任者を務めた方です。メルカリでは、リスク対応やIPO、新規事業、M&Aなど、企業の重要な局面でコミュニケーションを率いてきました。

今回は矢嶋さんが講義全体をリードし、僕は途中で合いの手を入れたり、いくつかの事例や考え方を補足する役回り。後半のワークでは、自分もマイクを持ちながら参加者の皆さんと一緒にナラティブを考えました。

講義を通じて改めて考えたのは、ルールメイキングもPRも、結局は「社会との合意形成をどうつくるか」という仕事なのではないか、ということです。

PRは「社会との合意形成」の技術

講義の前半では、矢嶋さんから「そもそもPRとは何か」という話がありました。

PR=メディアに取り上げてもらうこと、ではありません。

Public Relationsとは、顧客、取引先、社員、株主・投資家、行政、生活者など、企業を取り巻くさまざまなステークホルダーとの関係をつくること。メディアへの露出も、そのための手段の一つです。

ルールメイキングでも同じです。

政策決定者に直接働きかけるロビイングだけでなく、PRを通じて世論や社会の関心を動かし、「これは今、議論するべきテーマだ」と認識してもらうことが、政策形成を後押しすることがあります。

矢嶋さんは、PRを「社会との合意形成」の技術・マインドセットと表現していました。

登壇する矢嶋聡さんと日比谷尚武
矢嶋さんと二人で。投影中のスライドは矢嶋さんによるもの

新しいサービスほど、既存の制度や業界構造、社会の常識とぶつかります。

そのときに「自分たちが正しい」と押し切るのではなく、異なる立場の人たちとの間で、「ここなら握れますよね」という共通利益を探す。

これは、ルールメイキングにもかなり通じる考え方です。

社会実装を阻む「PTCのギャップ」

その話を受けて、自分からは「PTC」という見方を紹介しました。

  • Policy:法律・規制・制度
  • Tech:技術・サービス・ビジネスモデル
  • Culture:文化・慣習・社会規範・世論

新しい技術や事業が登場したとき、この3つは必ずしも同じ速さで進みません。

社会浸透に向けた「PTCギャップ」分析。Policy・Tech・Cultureの三角形の中央に社会実装を置いた図

例えばオンライン名刺は、技術はすでに存在していましたが、「名刺交換は対面で行うもの」という社会慣習や、政策上の位置づけが後から動きました。

電動キックボードは、技術と制度が進んだ一方、安全性や走行マナーをめぐる社会との摩擦が残っています。

働き方改革では、制度やテレワークの技術があっても、「会社に行って働くのが当たり前」というCultureはすぐには変わりません。

3つを並べてみると、PA(パブリックアフェアーズ)で埋めるべきギャップは、案件によって違うということが見えてきます。

制度を動かすべきなのか。
技術を改善するべきなのか。
社会の理解や受容をつくるべきなのか。

まずそこを見極める必要があります。

PAで埋めるべきギャップは案件ごとに違う。オンライン名刺・電動キックボード・at Will Work の3事例をPTCの状態と働きかけで比較した表

では、そのギャップを埋めるために何を語るのか。

そこで矢嶋さんが紹介したのが「ナラティブ」です。

自社の話を、社会の話として語り直す。ここから先は矢嶋さんの講義の核心なので、内容には立ち入りません。

実際にナラティブをつくってみる

後半は、参加者の皆さんにも実際にナラティブを考えてもらいました。

自社の商品やサービスの説明はできても、「それが社会にとってなぜ必要なのか」を考えると、一段難しくなります。

でも、そこにこそPRの面白さがあります。

自分たちが伝えたい話から始めるのではなく、社会側から自社を見てみる。

「なぜ、今この会社、この事業なのか」を考えることは、広報だけでなく、経営や事業戦略そのものにもつながる問いだと思います。

PMIルールメイキングアカデミーの会場全体。参加者がワークに取り組んでいる
ワークショップの様子

PTCは「工程表」ではない

質疑応答では、PTCについて面白い質問をいただきました。

「Cultureを変えるのが一番難しそうだが、逆にCultureが先行してPolicyやTechが追いつかないことはあるのか」

そして、「Cultureは時間が解決するのを待つだけなのか。Policyを変えることでCultureを動かすことはできるのか」という質問です。

このやりとりは、自分自身にとっても面白いものでした。

PTCは、Tech → Policy → Culture という順番で進む工程表ではありません。

社会のニーズや価値観が先に変わり、それを受けて制度が変わることもある。

逆に、制度によって人の行動が変わり、その行動の積み重ねによって社会の「当たり前」が変わることもあります。

つまり、C → P もあれば、P → C もある。

PTCは、3つの進捗を測るための工程表というより、社会実装を取り巻く状態と相互作用を見るための地図と捉えた方がよさそうです。

工程表を脇に置き、3つの拠点が双方向の矢印で結ばれた地図の前で矢印の1本を指さす人物

そしてPAで重要なのは、「どれが遅れているか」だけでなく、「どこを動かせば、ほかも動き始めるのか」を考えることなのだと思います。

話してみて思ったこと

パブリックアフェアーズというと、行政や政治家に働きかけて法律や規制を変える仕事。

PRというと、メディアに取り上げてもらう仕事。

そう捉えられることがあります。

でも今回、矢嶋さんと一緒に話して改めて感じたのは、そのどちらも、もう少し広い仕事だということです。

社会のどこに摩擦があるのか。
Policy、Tech、Cultureのどこにギャップがあるのか。
誰と関係をつくり、どこから動かしていくのか。

Policy・Tech・Culture の3つが双方向の矢印で結ばれ、その中心に立つ人物

そして、そのために社会とどんな認識や物語を共有するのか。

ルールを変えるだけでは、社会は変わりません。

逆に、世論だけを動かしても、制度や技術が変わらなければ社会実装は進みません。

PTCのどこにあるギャップを、誰との関係構築によって埋めるのかを設計する。

そのための共通利益やナラティブをつくる。

そんなところに、ルールメイキングとPRが交わる場所があるのだと思います。

矢嶋さん、参加いただいた皆さん、そして企画・運営いただいたPublic Meets Innovationの皆さん、ありがとうございました。

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日比谷尚武

日比谷尚武(ひびや なおたけ)

合同会社kipples 代表 / PRコンサルタント

慶應SFC卒。Sansan株式会社などを経て2016年kipples設立。スタートアップから上場企業・行政機関まで、広報・P R戦略の立案から実行支援まで幅広く手がける。