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カンヌ受賞作を「すごい」で終わらせない。事例を自分たちの現場に翻訳する勉強会

カンヌ受賞作を「すごい」で終わらせない|カンヌライオンズ2026 受賞作の勉強会

正直に言うと、カンヌってちょっと斜に構えて見ていた時期があります。

「エージェンシーの人たちが、自分たちの仕事の実績を評価し合って、次の仕事獲得のためにノミネートしているんでしょ。」
「事業会社の広報で、あんな派手な発信をする機会なんてそうそうないし、実際の仕事は社内の調整だったり、事業に寄り添って地味に動いたりするほうがずっと多いわけで。
だから、まあ、自分には関係ないよね。」

などと思っていた時代もありました。

が、最近は、真面目に受賞作品を眺めるようになりました。

食わず嫌いだったな、と思います。ちゃんと見てみると、発想は大胆だし、社会との接点のつくり方も巧い。素直にすごいなと思う作品がいくつもある。

ただ、そこで「すごい」で終わってしまうと、もったいない。

ということで先日、広報やコミュニケーションに関わる人たちで集まって、今年のカンヌ受賞作を題材にした勉強会をやりました。
非公開の会だったので、参加メンバーや会場については伏せますが、2時間ほど、かなりどっぷり議論しました。

まずは、受賞作をじっくり見る

最初にプレゼンターから、今年の受賞作品と全体の傾向を解説してもらいました。

いくつかのテーマに沿って受賞作品をピックアップしてくれて、それぞれについて解説をしてもらいました。

ただ、施策の説明をするだけでなく、

  • 今年はどんなテーマが目立ったのか
  • どんな社会背景を取り込んでいるのか
  • ブランドや企業は、どんな立ち位置で社会との関係性を設計しようとしたのか
  • なぜ、その企画が評価されたのか

というところまで、かなり丁寧に分析していただきました。

で、後半は「これを自分たちの仕事や、日本国内の施策に置き換えるとしたらどう考えるか?」というテーマで、参加者同士のディスカッション。
ここからが面白かったです。

コピーできない部分

受賞作を分解したパーツを机に並べ、そのうち1枚を手に取って眺めている

当然ながら、海外の成功事例をそのまま日本に持ってきても、うまくいくとは限りません。

むしろ、そのままコピーしようとすると、だいたい変な感じになる。

  • 市場環境も違う。
  • 文化も違う。
  • メディアとの関係も違う。
  • 企業と生活者との距離感も違います。

なので、見るべきなのは「何をやったか」だけじゃないんですよね。

  • なぜ、その企画に至ったのか。
  • そのブランドには、どんな資産があったのか。
  • 社会背景に何があったのか。
  • そこに至るまでにどんなプロセスを経たのか。

そういう要素を一度バラバラにしてみる。そのうえで、自分たちのいる環境に置き換えて考えてみる。

言葉にすると簡単なんですが、これがなかなか難しい。

キットカットの件で引っかかったこと

扉が開いてほぼ空になった輸送トラックの脇で、板チョコのバーコードをスマホでスキャンしている

今回、自分がいちばん「なるほど」と思わされたのが、ご存じのキットカットの事例でした。

イタリアからポーランドへ輸送中のキットカットが、12トンぶん盗まれた。本数にして41万本以上。それを盗難事件として処理して終わりにせず、消費者が「自分が買ったキットカットは盗まれたやつかどうか」を確かめられる仕組みを作り、盛り上げてしまった。今年のPR部門のグランプリです。

施策のアイデアそのものも面白いんですが、見ながら思ったのは、

これ、普段からの信頼関係がないと成立しないよな

ということでした。

メディアとの関係。PRエージェントとの関係。そして何より、顧客や市場とブランドの間に積み上がっているもの。

企画だけを切り取ると、「こういうことをやれば面白いのか」と思ってしまう。でも実際には、その前段にかなり長い時間をかけて溜めてきたものがある。盗難が起きたその場で「これ、いけますね」と関係者全員が同じ方向を向ける。そういう状態って、一朝一夕ではつくれない。

これは広報の仕事でも、けっこう大事な視点だと思っています。

派手な施策の表面的な部分だけを見て「同じことをうちもやろう」と考えるより、その施策を可能にしているプロセスや信頼の積み上げに着目する。そのほうが、自分たちの仕事に持ち帰れるものは多い。

冒頭で「(カンヌは)自分には関係ないよね」と書きましたが、あれは逆でしたね。
受賞するような施策は、地味な調整や日々の関係づくりの上に立っている。
だとすると、施策のための土台づくりは、自分たちもできているのかもしれない。

Flat Earther を日本でやるなら、河童か?

平らな円盤状の地球の模型と、頭に皿をのせた河童の置物を両手に持って見比べている

もう一つ、面白かったのが、Flat Earther(地球平面説を信じる人たち)を題材にした事例。アウトドアブランドのコロンビアが「地球の端を見つけて証明できたら、会社ごと差し上げます」と宣言した施策です。

「これ、日本だったらどうするんだろう?」

と考えてみました。

たとえば、河童伝説のある地域で、

「河童を捕まえたら賞金を出します」

みたいな仕掛け。

……考えられなくはない。というか、もうあるんですよね。岩手県遠野市の観光協会が「カッパ捕獲許可証」を発行していて、220円。捕まえて連れていくと賞金1,000万円だそうです。裏面には「頭の皿を傷つけない」などの捕獲7ヶ条まで書いてある。密かにファンが多い。

ただ、同じことを企業がブランドの施策としてやると、途端に「企画しました感」が強くなる。ちょっとネタっぽい。

違いは、たぶん前提のところにあります。

河童は「絶対いないでしょ」が共有されている。そのうえで許可証が売られているから、みんな「これはユーモアだよね」とわかったうえでネタとして関われる。安全なんですよね。

Flat Earther のほうは、本気の人たちが相手です。そこへ大企業のトップが出てきて、会社を譲ってもいいとまで言う。

この緊張感には、なかなか踏み込めない。
もし自分がこの企画を思いついたとしても、「これ、ネタにしちゃっていいの?」という感じが拭えないし、
そう突っ込まれたときに返す言葉がないですな。

一見すると、本気で信じている人たちをからかっているようにも受け取れる。
そこは正直、見ていて不安になりました。
少なくとも日本で同じスタンスをやったら、たぶん炎上します。

形だけ真似するなら、河童に差し替えればいいかもしれない。
でも、あの本気のコミュニケーションまでは真似できない。

コロンビアがやったのは、うまい企画を思いついたことより、その危うさごと踏み込むと判断できたことじゃないか。

キットカットは、長い時間をかけて溜めたものが効いた話。
コロンビアは、その場で腹をくくれたかどうかの話。
求められているものが違います。どちらか片方だけでは足りないんだろうな、と。

後半のディスカッション

きれいな一本道の矢印と、行き止まりや引き返しだらけの実際の道筋を並べた図を指差している

後半は、紹介された事例を材料にしながら、参加者同士でかなり自由に意見交換しました。
そのなかで、

「実は、自分の会社でも似たようなことがあって」
「その時、社内ではこんな議論になった」

といった、生々しい話も出てくる。

いくつかの企業の事例について、実際に担当していた人の口から、背景や意思決定の話を聞くことができました。詳細は控えますが、これがかなり面白かった。
外から見ると、きれいに完成した「成功事例」に見えても、そこまで一直線に来たわけではないことが多い。

  • 迷ったこともある。
  • 社内で議論したこともある。
  • 実現できなかったアイデアもある。
  • 思ったようにいかなかったこともある。

そうした話を聞くと、公開されている事例だけを見たときとは、見え方がかなり変わります。

ああ、最初からこの答えがあったわけではないんだな、と。
個人的には、完成した施策そのものより、こういう制作プロセスや意思決定の話のほうが気になったりします。

クライアントとの定例でやっていること

机に広げた新聞の切り抜きを3人で囲み、1枚を指差して話している。1枚だけオレンジの付箋が貼ってある

今回の勉強会を振り返っていて、ふと思ったのですが、
普段のクライアントとの会議でも、わりと似たことをやっています。

自分が関わっている案件では、定例会議のなかで、

  • 競合や業界のニュースをピックアップして紹介し合う
  • そのニュースから、市場がどう変化しているかを考える
  • ユーザーの行動や意識がどう変わっているかを話す
  • 競合はなぜこの打ち手を選んだのか、戦略を推察する
  • 自社で似た仕掛けをするとしたら、どうするかを考える

といったことをやるように推奨しています。

ニュースの共有だけなら、SlackにURLを貼れば済む。でも、それだけではあまり意味がない。

  • このニュースを、どう受け止めるか。
  • なぜ今これがニュースになるのか?
  • この変化は、自分たちにとって、何を意味するのか。

そこまで突っ込んでメンバーでディスカッションしてみる。

すると、お互いのアイデアを交換できるだけでなく、それぞれが市場や競合をどう捉えているのかもわかってきます。

同じニュースを見ていても、意外と解釈が違うんですよね。

「そこを重要だと思ったんだ」と気づくこともあれば、「その読み方は少し違うかも」と、お互いの見立てのずれを補正することもある。
さらに、経験のあるメンバーがどう情報を読み、何を手掛かりに仮説を立てているのかを共有することで、情報の読み方のトレーニングにもなっている気がします。

正解を教える、というより、解釈の仕方を互いに見せ合う感じでしょうか。

そして最後に、
「では、自分たちならどうする?」
まで考えてみる。

今回、カンヌの事例をみんなで咀嚼していた時間も、これと同じフレームワークだな、と思った次第です。


2時間ほど、かなり頭を使いましたが、良い時間でした。

プレゼンを準備してくれた方、会場を提供していただいた方、そして一緒に議論してくれた皆さん、ありがとうございました。ありがたや。。

何をやったのかを学ぶだけでは意味がない。
なぜ成立したのか、どんな積み重ねが必要だったのか。
そこまで踏み込んで、自分の現場に置き換えて、人と突き合わせる。
面倒ですが、このプロセスが、知識を自分のものにするために必要なんだよなぁ、と思った会でした。

参考:今年のカンヌ受賞作を見てみたい方へ

今回の題材になった、カンヌライオンズ2026(2026年6月22〜26日開催)の受賞作を見られるページと、解説記事をいくつか。

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日比谷尚武

日比谷尚武(ひびや なおたけ)

合同会社kipples 代表 / PRコンサルタント

慶應SFC卒。Sansan株式会社などを経て2016年kipples設立。スタートアップから上場企業・行政機関まで、広報・P R戦略の立案から実行支援まで幅広く手がける。