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問いを設計する、という仕事。TIB SHOP Meet Up Day 2026 登壇レポート

先日、Tokyo Innovation Base(TIB)で開催された「TIB SHOP Meet Up Day 2026」に行ってきました。スタートアップの出展・交流型イベントで、経営者、新規事業担当者、投資家まで数百人が集まる、なかなかの熱気でした。

今回はその中で、基調講演2セッションのモデレーターを担当しました。合計2時間、PR・ブランドづくりをテーマに、登壇者とスタートアップとのディスカッションを設計・進行する役割です。

今回はその様子と、そこから得た学びやモデレータとして心がけたことをご紹介します。


セッション①:「PRとはメディア露出ではない」という、シンプルで根深い話

最初のセッションは、株式会社サニーサイドアップ執行役員の岩崎真之介さんをお迎えしたトークセッション。テーマは「スタートアップが最初にやるべきPR ― AI時代における”伝わる仕組み”のつくり方」。

岩崎さんとは本番の30分ほど前に会場で初めて顔を合わせました。さっと段取りを確認して、軽く話してみると、共通の知人を通じてこちらのことをある程度知ってくれていた。それだけでだいぶやりやすくなります。ある程度突っ込んだ話もしやすくなるし、安心して進行に身を委ねていただけた、、はず。

今回のような場では、登壇者のコンテンツをそのまま流すだけでなく、聴衆に合わせて「翻訳」する作業がモデレーターには求められます。途中で茶々を入れたり、専門用語が出るたびに「これってつまりどういうことですか?」と聞き直したり、わりと積極的に割り込みながら場を柔らかくしていきました。こういうとき、モデレーター側にある程度の知識があると、翻訳もできるし場の調整も自然にできますよね。(その目的で、PRをテーマにしたセッションで日比谷が起用されたわけです)

PRとは何か、を整理する

セッションのゴールとして設定したのは、参加してくれたスタートアップのみなさんが、「PR、何から始めればいいかわからない」「メディア露出が正解だと思っている」「いつからPRに力を入れるべきか」という状態から、「自分の会社に必要な最初の一手が明確になる」状態へ変化すること。

岩崎さんが整理してくれたのは、PRとパブリシティの違いでした。

「PRやってます」と言いながら実態は「メディアに載せる活動」だけを指している。これが多くの現場での誤解で、そこから戦略がズレていく。岩崎さんの整理は明快でした。

  • ブランディング=自分磨き。相手の視界に入るための土台づくり
  • マーケティング=口説き。行動を促すための直接的なアクション
  • PR=噂話・雰囲気作り。さまざまなステークホルダーとの良好な関係構築のための考え方と行動のあり方

この三者を「恋愛」に例えながら説明していた流れが、会場によく刺さっていました。笑いも起きながら、でも本質が届いていく感じ。

私からの「自分磨きと”口説き”をがんばるケースは多そうだけど、その状態でPRをやっていないと何が起きるんですか?」という問いに対しては、「関係性が整っていない状態でどれだけ口説いても、信頼の蓄積がないから持続しない」という答えをいただき、会場のうなずきが増えたように感じました。

設計して始める、という発想

事例で特に印象に残ったのは、某スタートアッププロダクトの話。創業者2名しかいない段階からPRパートナーとしてチームインし、ローンチ前にトレンドリーダーにアプローチ、「数量限定先行販売」で意図的な飢餓感を創出、広告は一切打たない、社会的信頼の蓄積を意図的に設計したわけです。その後も一気に市場に放出せず小出しにしていく——という設計。

これ、教科書に載るような内容だなと思いました。実態はもっとバタバタしていたんだろうけれど、仕掛けの設計として本当に美しい。自分もこういう仕事をちゃんとやれているか、正直振り返りたくなる瞬間でした。

「まずは小さく始める」とよく言われますが、岩崎さんの話を聞いて感じたのは、スケールの問題ではなく「設計して始める」ということ。順番の問題です。これはSansanで広報を立ち上げたときに何度も実感してきたことでもあります。

スタートアップと公開ディスカッション

3社からの公開質問タイム

後半のトークセッションパートには、Coloridoh、RocaJapan、enell の3社が登壇してくれました。それぞれが事前に寄せてくれた悩みを、岩崎さんと一緒に読み解いていく形式です。

  • 売上がまだ小さい企業はPRをやる意味があるか
  • 社内に担当がいない
  • PRにどこまでお金をかけるべきか

公開ディスカッション形式で進めたんですが、これが想像以上に盛り上がりました。引き出し役のつもりでいたのに、途中から自分もPRの知見をついつい語ってしまって、気がつけばアドバイスもしていた。まぁでも、そのために自分が呼ばれているんだからいいか、とも思っています。登壇した3社が「自分ごと」として話してくれたこともあって、岩崎さんの返答にも熱が入る。会場にいた他の出展企業も前のめりになって聞いていた気配がありました。

スタートアップの皆さん同士でのやりとりも発生

モデレーターとして意識したのは、「悩みの解像度を上げること」。漠然とした課題をそのまま投げても、答えも漠然とする。「その悩み、具体的にはどんなことがあったんですか?」と問い直す、、これで議論が盛り上がりますよね。


セッション②:1716年創業の会社が教えてくれた、ブランドの本質

2つ目のセッションは、中川政七商店の赤塚高之さんをお迎えして開催。テーマは「お客様に選んでいただける商品・ブランドはどうつくられてきたのか」。

赤塚さんとも本番30分ほど前に会場で挨拶。軽く段取りを話したんですが、元同僚(赤塚さんはCCC出身)が多いイベントということもあってか、だいぶくつろいだご様子。

会場も交えてインタラクティブに進行

本番になると、事前にこちらのことを調べてくれていたようで、壇上でPRの話を振ってくれる。そのアドリブに乗りながら進めるうちに、後半には自然と息が合ってきた気がしております。アドリブを受け止めて返す、というキャッチボールが成立してくると、場がぐっと動き始める。こういうセッションは準備だけでは作れない部分があって、面白いですよねぇ。

工芸品市場の「もったいない」

中川政七商店は1716年創業。奈良晒(ならざらし)の麻織物から始まり、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンのもと、現在は全国約60店舗の直営店を展開しています。赤塚さんは産地事業支援部で、地方の工芸メーカーを支援する取り組みを担っています。

このセッションで赤塚さんが示したデータに、会場がはっとしました。

工芸品市場の規模が、1983年の5,400億円から2020年には870億円へと、約40年で約6分の1に縮小しているというデータです。これはただの市場縮小ではなく、ものづくりの文化そのものが消えていく危機を示している。

「日本の工芸を元気にする!」が単なるスローガンでなく、切実なビジョンであることが伝わってきました。

ブランド力とは何か

赤塚さんのブランド力の定義も印象的でした。「ブランドに関連するありとあらゆる情報が頭の中にインプットされ、一つのイメージができあがる。そのイメージのポジティブ度が、ブランド力だ」という整理。

私はずっと「ブランドとは認識の集積だ」と思ってきたんですが、「ポジティブ度」という言葉で測れる状態にしたのが面白かった。シンプルだけど、実務に使える捉え方ですよね。

スタートアップと公開ディスカッション

公開質問会の様子。アドリブで質問&回答が展開される。

今回のトークセッションには、SHITSURAE(廃棄されるアクリル板を再利用したアクセサリーブランド)と、玄米デカフェ(米をアップサイクルして作るコーヒー)の2社が登壇してくれました。まったく異なるプロダクトですが、課題の構造がよく似ていた。「良さは伝わっているはずなのに、なぜ売れないのか」という問いです。

どちらもこだわりのプレイヤーで、素材や製法への愛がある。だからこそ、「誰に届けたいのか」が曖昧なまま走ってしまいやすい。赤塚さんが丁寧に指摘していたのは、まさにそこでした。いい素材やいい設計を前面に出しても、受け取る側のイメージは積み上がっていかない。詳細は割愛しますが、そんな議論で盛り上がりました。

終わってから、2社ともっくりご挨拶できなかったのが少し心残りです。もう少し話を聞きたかった!


モデレーターとして、この一日で考えたこと

2セッションを終えて、帰り道に少し頭を整理していました。

モデレーターって、「場をつなぐ仕事」だと思われがちですが、実際には「問いを設計する仕事」に近い。登壇者の話を引き出すだけでなく、会場にいる人たちが「自分ごと」として受け取れる文脈を作る。それが機能したかどうかは、公開ディスカッションとか質疑応答の場で出てくる言葉の質でだいたいわかります。

今日は両セッションとも、登壇してくれたスタートアップが本音で話してくれて、場にいた人たちをそこに巻き込めた。それが手応えとして残っています。

会場にいたスタートアップの方々の中に、今日の話を持ち帰って「まず一手」を踏み出せる人が何人いるか。全員じゃなくていい。ほんの数人でも「あ、これなら自分にもできそう」と思えた時間になっていたとしたら、それで十分だと思っています。

こういう場づくりの醍醐味は、そこにあると思っていて。成果はすぐにはわからないが、でも確かに伝わったという手応えは、現場にいると伝わってくるものです。

大盛況だった懇親会

登壇の機会をいただいたTIBのみなさま、岩崎さん、赤塚さん、そして会場に来てくれた方々に、改めてありがとうございました。

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日比谷尚武

日比谷尚武(ひびや なおたけ)

合同会社kipples 代表 / PRコンサルタント

慶應SFC卒。Sansan株式会社などを経て2016年kipples設立。スタートアップから上場企業・行政機関まで、広報・P R戦略の立案から実行支援まで幅広く手がける。