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「女神の見えざる手」に学ぶ、“合意形成”のリアルな駆け引き ── 広報パーソンこそ観ておきたい、戦略コミュニケーションの教科書

「どうやって人を動かすのか?」

この問いに、真正面から挑んでいる映画があります。
それが、ジェシカ・チャステイン演じる凄腕ロビイスト、エリザベス・スローンを主人公にした『女神の見えざる手(Miss Sloane)』です。

この映画、ぶっちゃけ「広報・PRに携わる人は必修科目なんじゃ?」と思うくらい、コミュニケーションのプロが直面するリアルな葛藤と駆け引きが詰まっています。


合意形成とは、“誰をどう巻き込むか”のアートである

「世論調査で過半数が賛成している? それじゃダメ。法案を通すには、政治家が“自分の選挙に不利だ”と感じるように仕掛けないと動かないのよ。」

…このセリフの核心は、「共感=期待する結果」ではない、という点です。
特にここで重要なのは、“賛成しているのは国民”であって、“実際に動かすのは政治家”という、アクションの主語が違う構造

これ、私たちが現場でよく直面する、「応援してくれているのに、決裁者が首を縦に振らない」みたいな状況に重なりませんか?

広報の役割は、単に「いいね」を集めることではなく、“本当に動いてほしい相手”にとって意味のある状況をどう作るかにあります。
つまり、共感をベースにしながらも、その先にいるキーパーソンの“利害”や“スイッチ”を見極めて働きかけることが求められているんですよね。

広報に活かせる!「見えざる手」的テクニック3選

スローンのやり方は決してスマートだけではなく、時に危うく、倫理ギリギリ。でも、だからこそ刺さるノウハウがある。以下に、広報でも実践できそうな技術を3つ抽出してみました。

1. “反対派”をあえて炙り出す

スローンが仕掛ける戦略のひとつが、「敵を表舞台に引っ張り出すこと」。
彼女は、銃規制に反対する団体や議員たちの“都合の悪い本音”や“裏の動き”を、あえてリークしたり、証言者を準備したりして、世論の前に可視化していきます。

その結果、一般の中間層も「これは単なる賛否の問題じゃない」「誰のための議論なのか?」と自分の立場を見直さざるを得なくなる。

→ 広報でも同じで、あえて反対意見やネガティブな論点を先に出すことで、議論の“焦点”をつくり出すことができるんです。
それが“論点の輪郭をはっきりさせるトリガー”になることもあるんですよね。

2. ステークホルダーマッピングは“感情”まで含めて設計

彼女の戦略は単なる組織や役職の分析にとどまらず、「この議員は娘が銃犯罪の被害者」という背景情報まで含めてアプローチの順序を決めています。

ペルソナ設計やアプローチ順を整理するとき、もっと“感情”で整理してみてもいいのかもしれません。

3. 目的から逆算して、あえて“不都合な情報”も公開する

物語の終盤、スローンはある“禁じ手”とも言える作戦を実行します。
その内容は、もし表に出れば、自分のキャリアすら危うくなるレベルのリスクを伴うもの。でも彼女は、それすら“計算のうち”として織り込んで行動するんです。

なぜそんな危ない橋を渡るのか?
それは、「自分が守るべき目的(ゴール)」がぶれないから。

→ 広報においても同じです。
自社や組織にとって都合の悪い情報やネガティブな側面を、あえて自ら伝えるという判断は、ときに大きな信頼を生む布石になります。
ポイントは、「何のために伝えるのか」という視点を軸に持ち続けること。
“信頼される広報”とは、発信内容だけでなく、“リスクとの向き合い方”そのものに現れるものなんですよね。

映画の外にある、あなたの「見えざる手」は?

スローンは強烈な個性と孤独を抱えながらも、「社会を変える」という意志のために、自分のキャリアすら賭けます。
でもそれって、広報やロビイストだけでなく、何かを変えようとしているすべての人の背中を押す問いなんじゃないかと思うんですよね。


皆さんの現場では、“合意形成”をどう仕掛けていますか?
一人でできることには限界があります。でも、「誰と組むか」「どこに火をつけるか」を考えるのは、まさに広報パーソンの腕の見せ所。

映画を観たことがない方も、ぜひ一度この“戦略コミュニケーション映画”を観て、自分の「見えざる手」の精度を磨いてみてはいかがでしょうか?